読書感想文 〜PMBOKガイド第7版〜
1.はじめに
この記事は、FOLIO Advent Calendar 2021の17日目の記事です。
PMBOKガイド第7版が2021年8月に公開され、10月には日本語版も公開されました。今回は、それなりの価格でPMBOKガイド第7版日本語版を購入しましたので、せっかくなので読後の感想を書いてみようと思います。
これは、私が読んだ感想であり、実際に読まれた方はまた違うことを思われるかもしれませんが、その点はご容赦ください。
2.PMBOK第6版から第7版の変更点概要
PMBOKガイド第7版では、成果物ではなく意図した成果をより重視するため、プロセスベースの標準から原理・原則ベースの標準に移行している旨が記載されています。
アジャイルソフトウェア開発宣言の中に、「包括的なドキュメントより動くソフトウェアを(Working software over comprehensive documentation)」という記述があり、アジャイル開発を強く意識した変更であることが伺えます。
具体的に、旧版と第7版の違いを見ていくと、まず、PMBOK第6版では、49のプロジェクトマネジメント・プロセスを、以下のプロセス群・知識エリアで構成されるカテゴリーに合わせて、利用しプロジェクトを進めていく形でした。
(PMBOK第6版の構成)
- プロジェクトマネジメント標準
- プロジェクトマネジメント知識体系
- はじめに、プロジェクトの運営環境、及びプロジェクト・マネジャーの役割
- 知識エリア
- 統合/スコープ/スケジュール/コスト/品質/資源/コミュニケーション/リスク/調達/ステークホルダー
※プロセス・プロセス群・知識エリアの具体的なイメージは以下のサイトなどを参照ください。
【PMP】合格のために覚えるべき49のプロセス一覧(PMBOK第6版対応) - PMサムライ
一方、PMBOK第7版ではプロジェクトマネジメント標準とプロジェクトマネジメント知識体系に記載されている内容が大きく変わっています。
プロジェクトマネジメント標準では、価値実現システムとして、何らかの価値を実現するための組織・環境などを定義し、プロジェクトマネジメントを行う上での、価値観を含めた原理・原則が記載されています。
そして、プロジェクトマネジメント知識体系として、プロジェクトマネジメントの原理・原則を行動指針をもとに、プロジェクトパフォーマンス領域でマネジメントの活動内容に言及し、状況に合わせて必要な要素を定期的にテーラリングすること、及び、各プロジェクトパフォーマンス領域で有用な具体的なモデル・作成物等が記載されています。
(PMBOK第7版の構成)
- プロジェクトマネジメント標準
- はじめに
- 価値実現システム
- プロジェクトマネジメントの原理・原則
- プロジェクトマネジメント知識体系
なお、PMBOK第6版で規定されていた5つのプロセス群は、「モデル、方法、作成物」の中のモデルの一つにとどまっており、プロジェクト憲章やプロジェクトマネジメント計画書などの主要アウトプットはよく使用される成果物というレベルの記載になっています。
PMBOK第6版の時点では、アジャイル開発に関する言及はあるものの、基本はウォーターフォール開発がベースとなっており、また物作りも明確な終了タイミングがある有期のプロジェクトの中で行われることが基本的な考え方であると認識しています。
ただ、現状広く使われているアジャイル開発のように、顧客に価値のあるものを早く提供し、顧客のフィードバックを受け継続的に改善をし、短いサイクルでリリースを繰り返すような開発では明確なプロジェクトの完了時期がないこともあるかもしれません。システム開発など物作りがプロジェクトの中ではなく、極端に言ってしまえば定常業務の一環として行われていることもあるでしょう。そのような場合は、第6版までのようなプロセスベースのアプローチの知識体系を適応することには限界があることもわかります。
ウォータフォールやアジャイルのようにプロジェクトの進め方も多様化し、今後もプロジェクトマネジメントが変化していくことが想定されるため、変化しやすい具体的なプロセスをベースとするより、原理・原則をベースとしたアプローチに今回変更していると認識しています。
3.終わりに
- 第7版でPMBOKの内容が大きく変わったからといって、マネジメントの現場が即座にすぐに大きく変わるとは思っていません。まとめ方が代わり、アジャイルやスクラム、リーン開発の技法の追加等ありますが、これまでの内容は踏襲されています。第7版の中でも、過去の版のプロセスベースのアプローチとの整合を無効にする内容は一切存在しない旨が明確に記載されています。
- PMBOKガイド第7版ではアジャイル開発に適応させるために変更していると見受けられますが、ウォーターフォール開発について否定されているものではなく双方公正に見ています。「開発アプローチとライフサイクル・パフォーマンス領域」でも、プロダクトのイノベーションの度合いや要求事項の確実性、規制、組織構造などの要素をもとに、予測型アプローチ(ウォーターフォール開発のイメージ)か適応型アプローチ(アジャイル開発のイメージ)を採用するか決定する旨が記載されています。現実、金融のバックエンド開発でいえば、法令・規則や商慣習が要件を規定されており、また、当局から仕様の文書化を求められることもあります。そのような場合は、ウォーターフォール開発の方がやりやすいという場面も多いかと思います。また、システム開発の現場では、委託側が受託側の製造責任を明確にするため、一括請負契約が好まれる傾向にあると感じています。その際には、決められたスコープと仕様に基づき開発がし易いウォーターフォール開発の方が採択し易いでしょう。
- リーンキャンバス、カンバン、レトロスペクティブなどスクラムやリーンの手法にも言及されていますが、これら手法はアジャイルのような適応型アプローチに限定した記述にはなっていません。ウォーターフォール開発のような予測型アプローチでも採用出来ることが前提で記載しているようにも見られ、ウォーターフォール、アジャイル両者の手法をうまく融合させようとしていると感じました。